名義預金

税務調査で指摘される申告漏れ財産では、現金・預貯金などが約25%ともっと多くなっています。これらは、名義預金等による申告漏れといわれています。

簡単に言うと、相続人が「贈与があった」とか「これはもらったお金」と考えていたのですが、実際には贈与が成立していなかったことになり、その結果、被相続人の遺産とすべきものが過小となっていたという場合です。

悪意がなくても、申告漏れを指摘されると修正申告が必要となり、納付が遅れたことによる利息(延滞税)や制裁金(過少申告加算税や重加算税)までかかるので厄介なことになってしまいます。

相続税の申告の際に、

  • 名義預金に該当するものは相続財産に含めて申告する
  • 名義預金等に該当しないようにグレーなものは事前にきれいにしておく

ことが肝要です。

それでは、「名義財産とは何か」、「どのようにすると名義財産にならないのか」について見ていきましょう。

【まとめ】

被相続人所有財産を形式ではなく実質で判断する

相続税は、相続開始時に、被相続人に帰属していた財産を取得した財産について課税されます。被相続人に帰属しているかどうかが重要な判断指標となります。

被相続人の財産であるかどうかは、単に名義人が誰かであるかという形式のみで判断するのではなく、実質で判断するのがルールです。

したがって、形式的には被相続人の配偶者、子どもや孫などの名義となっている預金等の財産について、それらが親族等の名前を借りているに過ぎず、実質的に被相続人が所有していると判断される場合には、その財産は名義人のものではなく被相続人に帰属する財産ということになります。

「実質帰属者課税の原則」

税法では、名義に拘わらずその課税対象の真実の所有者に課税する

名義人≠真実の所有者

真実の所有者に課税する

名義人に帰属するかどうかの判定

名義人が真実の所有者であるかどうかは、次の3つのステップで判定します。

【真実の所有者の判定ステップ】

被相続人との贈与契約が成立していた(②の要件)としても、その贈与が実際に履行され、名義人が自由にその口座を使用できる状態である(③の要件)ことが必要です。

納税者の立場からすると、「贈与があったのだから、名義人のもの」と誤解されるケースが多いのですが、「贈与するという約束があり、贈与財産が受贈者によって支配されている(つまり、贈与するという約束が実際に履行されている)」という状況でないと、名義が相続人であっても単なる「贈与の予約」として、その財産は名義人ではなく被相続人の財産として扱われます。

相続税の税務調査で必ず問題とされる銀行預金口座を例にして、各ステップの内容を説明します。

その資金の源泉が、被相続人の資金が源泉である

名義人自身の収入が原資となっている預金は、当然真実の所有者は名義人となります。この要件を満たしているというためには、名義人の年齢、職歴・経歴などからこれまでの収入と比較してバランスがとれている必要があります。この点について、税務調査では必ず調査員から確認されます。

名義人自身の財産が原資であるかどうか(名義人に資力があるといえるか)を確認するポイントは、次の通りです。

  • 名義人の年齢・職歴や経歴等からバランスが取れている残高であるか
  • 財産形成日(口座開設日や入金日)と近い時点で被相続人口座からの出金や収入(財産の売却による収入など)があった事実がないか
  • 別の親族からの相続によるものがないか

名義人に預金という財産を形成する経緯に合理性がない場合や、資金の源泉が曖昧な場合に、名義人の預金であるというためには、被相続人から生前贈与があったことが要件となります。

生前贈与があったか

生前贈与には、書面による贈与と口頭による贈与があります。

書面による贈与の場合

書面による贈与の場合には、贈与契約書そのもが生前贈与があったことの根拠となりそうですが、口座の所有者を判定する決定打にはなりません。

名義人がそもそもその契約書の存在を知らない場合があるなど贈与契約書が偽造された可能性や、贈与の予約であって実際の贈与は行われていないとみなされる場合があるためです。

したがって、次の要件である「名義人が自由に出金・入金できる状態である」ことを満たしていることがより強力な根拠となります。

口頭による贈与があった場合

贈与は「あげる」「もらいます」という双方の意思表示の一致をもって成立するので口頭による贈与の方式があります。しかし、民法で「口頭による贈与の場合は、被相続人が撤回できる」と定めていますので、口頭の贈与は法的に不安定な契約の扱いになっています。

したがって、口頭による贈与契約の場合は、次の要件である「名義人が自由に出金・入金できる状態である」ことを満たす必要があります。この要件を満たすことで、口頭による生前贈与があり、その贈与が実行された、つまり、撤回されていないという根拠になります。

生前贈与があったかどうかを確認するポイントは、次の通りです。

  • 生前贈与契約書があるか
  • 贈与税の申告納税をしているか
  • 名義人がその財産の存在を知っているか

被相続人に意思能力がなかった贈与契約

民法では、「意思能力のない者」の法律行為は無効となります。このため、被相続人に意思能力がないと考えられる場合には、贈与契約は成立していないことになります。

意思能力は、行為の結果を判断するに足りるだけの精神能力のことであり、例えば、認知症を患って行為の結果を判断することができない者は、意思能力を有しないと解されます。

意思能力がない被相続人にかわって親族が契約行為をすることも無権代理行為として無効となります。

内容
無効とは 意思表示・法律行為がはじめから効力を生じていない
無権代理人行為とは 無権代理人がおこなった法律行為の効果は本人に効果帰属しない

不当利得返還請求権として相続財産に含める

相続人が被相続人の資金管理をしている場合等で、被相続人の口座から引き出された現金が被相続人の委任の範囲を超えて費消されていると認められる場合には、被相続人に損失を及ぼした不当なものとして被相続人には相続人に対する不当利得返還請求権があることになります。このため、この不当利得返還請求権は相続財産として課税の対象となります。

例えば、相続人自身のための支出であるとか、相続人が他の親族などへ贈与している場合が不当利得返還請求権に該当し、当該金額は相続財産として課税の対象となります。

その贈与契約が履行されているかどうか

被相続人との贈与契約が成立しており、かつ、その贈与契約が実際に履行されていることが必要です。贈与財産が贈与されることにより、受贈者がその財産を支配している(具体的には、その財産の管理・運用を受贈者が行っている)状態である必要があります。

贈与契約が実際に履行されていることを確認するポイントは、次の通りです。

  • 管理者は誰か
  • 口座開設手続きは誰が行ったか
  • 住所が名義人の居住地と整合するか
  • 口座名義と名義人の名前と整合するか(婚姻等で姓が変わっている場合)
  • 預金の預け入れや引き出しに必要な証書、通帳、印鑑、キャッシュカードを自ら管理しているか
  • 運用者は誰か
  • 利得を誰が享受・収受しているか
  • 入出金手続き、投資判断を行なったのは誰か

夫婦間の財産管理

夫婦間においては、夫の財産を運用及び管理することは不自然ではないことから、運用管理していることのみで贈与契約が成立したことにはなりません。妻に対する贈与契約が成立している客観的な証拠が必要となります。例えば、へそくりを原資にした妻名義の預貯金は、夫の預貯金とみなされる可能性があります。

名義預金

名義預金とは、例えば、配偶者、子や孫の名義となっているが被相続人の財産とみなされる預金のことです。相続税の税務調査では、名義預金があるかどうかを重点的に調べられ、名義預金があれば、過少申告として扱われます。

例えば、次のようなものが「名義預金」に該当し、夫の相続財産になります。

  • 専業主婦の方が財布をやりくりしてコツコツためたへそくり
    夫の給与収入等で生活費とやりくりし、余ったお金で預け入れた妻名義の預貯金である「へそくり」は、夫から妻への明確な生前贈与の事実がない限り、妻の財産ではなく夫の財産となります。妻が夫の財産について運用及び管理することは、不自然なことではないことから、その預金の入出金を妻が自ら行っていたとしても、原資の出所である夫の財産とみなされます。妻には厳しいルールとなっています。
  • 父が子供のために子供名義の通帳にコツコツためたお金
    子供名義の口座に貯蓄しただけでは、生前贈与したことにはなりません。贈与の実態があって初めて認められます。適切に贈与された財産は、受贈者が自分のものとして認識し、その資産を使用収益し、また、管理・支配・運用している必要があります。

その預金が「誰のものか」は、

  • その預金の原資は何か
  • その預金の実際の管理や支配・運用の状況

などの具体的な事実から、真の所有者が誰であるのかを判断します。

  • その預金の原資は何か

相続人や親族などの金融資産残高が、その人の収入や保有資産の状況からみて異常に多い場合、被相続人の財産が含まれている可能性があるため、相続税申告の際には、どのようにして相続人や親族などの資産が形成されたのかの確認が重要な手続きになります。
被相続人が稼得した原資が元になっている配偶者、子や孫の名義となっている預貯金であっても、被相続人から贈与された(民法上の贈与契約が成立していれば)ものであれば名義人=所有者となり、名義預金とはなりません。このため、生前贈与があったのかどうかが論点となります。

  • その預金の実際の管理や支配・運用の状況

誰が財産の運用管理をしていたかということが重要な判定要素になります。ただし、夫婦間では妻が夫の財産について管理及び運用することが不自然ではないため、妻名義の預金について妻が実際に運用管理していたという事実は、妻に帰属するものであることを示す決定的な要素にはならないという判例があります。

贈与の事実を認めてもらうには

贈与とは、「贈与は当事者一方が、自己の財産を無償にて相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって、その効力が生じる」と規定しています。このため、贈与者による「あげます」という贈与の意思表示と受贈者による「もらいます」という受贈の意思表示が合致すれば成立する契約(諾成契約)であるように見えます。

しかし、書面によらない贈与は、履行済みでない限りは何時でも自由に取り消すことができるという制約が設けられています。つまり、口頭による贈与契約で未履行の部分は、拘束力がないため、贈与者は受贈者に対して贈与物を引き渡す義務がないのです。

逆に言うと、拘束力のある贈与契約とは、①書面による贈与契約か、②履行済みの贈与契約ということになります。

したがって、贈与契約は形式的には諾成契約とされていますが、実質的には、要式契約(書面により成立する契約)または要物契約(モノの引き渡しによって成立する契約)であるといえ、税務調査においても、被相続人からの贈与について、①契約書による贈与であること又は②贈与は履行済みであることを示す必要があります。

税務調査の際に、この2つのどちらかを満たしていることを示せないと、贈与はそもそも成立していないとされ、その資産の名義人に関わらず被相続人が所有していた資産であるということになります。

例えば、通帳や印鑑並びにカードを被相続人が保管管理していた場合には、貰った人が運用管理している要件を満たさないため、被相続人の財産として認定されます。

相続税において贈与が
成立する3要件
根拠となる事象
贈与契約が
成立している
(1) 「あげました」という意思表示があること
(2)「もらった」という受諾認識があること
・贈与契約書を作成する
贈与税の申告と納税をする
贈与契約が
実際に実行された
(3) もらった人が自ら財産管理、運用、使用していること ・子と孫の印鑑で口座を作る
・子と孫は通帳と印鑑を自分で管理・保管する

3つめのの要件「贈与契約が実際に実行された」ことを満たしていないと、名義が相続人であっても単なる「贈与の予約」であって、被相続人の財産として扱われます。

書面によらない贈与契約が成立していたか

贈与契約は、書面がなくとも口頭のみで成立する諾成契約に該当します。

しかし、民法では、書面によらない贈与は、各当事者(贈与者および受贈者)が撤回できると定めています。ただし、履行の終わった部分については撤回できません。

したがって、一度贈与すると約束していても、約束を実行していない場合には、その約束を撤回すれば贈与は初めから無効となります。

例えば、1千万円を贈与すると口頭で約束し、そのうち600万円を実際に引き渡した場合には、その引き渡した600万円は撤回できませんが(受贈者に対して返還を要求できない)、未履行の400万円部分のみ撤回できるということです。

このように履行前の「書面によらない贈与」は、不安定な契約状態であり、現実の履行がない場合には、資産を取得したとはいえないと判断されるリスクがあります。

つまり、「贈与契約の成立はあったが、履行はない」と考えることができ、贈与者から受贈者への財産の確定的な所有権移転がないと法的に判断されるということです。

逆に、書面がある場合には、「成立はあったが、履行はない」と認定されるリスクは低くなる(民法上も撤回できないため、所有権は確実に移転するであろう)といえます。

金融機関の窓口などでの確認

マネーロンダリング対策などから金融機関の口座開設時において本人確認が求められますが、それはその人が実在するかどうかのチェックだけで、当然のことながらその預金の真実の所有者であるかどうかまでは詮索していない。

税務署はどうやって名義預金を調べるのか

税務署は預金を把握してから税務調査に来ています。

基本的に、調査官は、実地調査の前に銀行等の金融機関から被相続人の口座のみならず家族・親族名義の預金口座情報を入手し、それらと相続税の申告内容と事前に照らし合わせ、名義預金の可能性があるものを抽出しておくという作業をしています。

実地調査で相続人の財産形成について確認し、その収入に見合わない預金残高(相続人名義)がある場合には、調査官からその預金が実質的には被相続人に帰属する「名義預金」であることを指摘されることになります。

贈与の時効

贈与税の時効の成立は基本的に6年間です。故意で申告せずに、贈与税を支払わなかった場合には、1年間延長されるため6年+1年=7年が時効となります。

繰り返しになりますが、名義預金はそもそも贈与がおこなわれていないという考え方ですから、名義預金には贈与の時効という概念がありません。10年前に設定された孫名義の預貯金も、名義預金として判断されると被相続人に帰属する預貯金です。

名義株式

名義株式とは、被相続人以外の例えば子名義の株式が、実質的には被相続人の財産であるとみなされるものをいいます。名義株式とみなされると相続税が課されます。

同族会社においては、親族等が何らかの理由で形式的に株主となっているケースがあります。株式についても、形式ではなく、所有権を有しているかどうかの実質で判断します。そのため、払込時の状況、株券の保管状況、配当金の受領状況及び申告状況を確認すべきです。

贈与の成立について事実関係を示す状況証拠として、次の事項があります。

  • 株主総会に出席し議決権を行使している者は誰か
  • 贈与契約書の有無
  • 配当金を受領しているものは誰か
  • 譲渡制限株式である場合の譲渡承認手続きが行われているか、また、その手続を誰が行ったか
  • 株主名簿に記載されているのは誰か
  • 贈与税の申告をおこなっているか(基礎控除額以下であれば申告不要)

配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減とは、1億6000万円と法定相続分のいずれか大きい金額まで配偶者が相続しても相続税はかからない制度ですが、この制度を適用する際には、一定の条件があります。

「配偶者がその相続財産を仮装または隠蔽した(知っていて隠した)と認定された場合」には、この税額低減が適用できません。さらに、相続税本税の35%の重加算税がかけられます。重加算税が課せられると、延滞税が無限にかかってきてしまうことになります(期限の打ち止めがない)。